ベストセラー「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略-」では、長寿化の時代において激変するライフステージへの対処法について書かれています。その中で、“無形資産”、目に見えない資産を豊かにすることがポイントとして挙げられています。
世界では、過去200年間、平均寿命は10年に2年のペースで延びており、100歳以上の人口は現在の6.1万人から2050年には100万人まで増加すると言われる中、ライフプランそのものの見直しが求められる。有形資産、つまり貯蓄、株、不動産などに着目されがちだが、人生100年時代を生きるうえで本当に大切な要素は無形資産、つまり目に見えない資産である。
この記事では、3つの無形資産について詳しく解説します。そして人生100年時代で歩むべきライフステージについても掘り下げていきます。
- 生産性資産:稼ぐためのスキルや知識、仕事の仲間や評判のこと
- 活力資産:バランスのとれた生活や家族との良好な関係、肉体的・精神的な健康のこと
- 変身資産:マルチステージを生き抜くため社会の変化に柔軟に対応し、人生の途中で何度でも新しいステージへの移行を成功させる意思と能力のこと
生産性資産
生産性資産とは稼ぐためのスキルや知識、仕事の仲間や評判のこと。
いきなり話が脱線しますが、現在最も注目を集めているのは機械学習と人工知能の進歩です。AIの発達により価値を失わないスキルは、新しいアイデアと創造性、人間ならではの知能と共感能力、思考の柔軟性と俊敏性です。こうしたスキルを磨くことで、激変する時代を生き抜く力がつくということです。
また、強力な人間関係を築いている人は、他人の知識を容易に取り込み、自身の生産性を向上させ、イノベーションを促進できます。こうした周囲との人間関係は評判の形成と拡散の過程で大きな役割を果たします。なぜなら自らの評判を自分ではコントロールできないからです。
活力資産
活力資産とはバランスのとれた生活や家族との良好な関係、肉体的・精神的な健康のこと。健康な脳を保つには、運動や食事、知能トレーニング、頭脳エクササイズが重要です。食事は低脂肪、野菜、果実、魚(オメガ脂肪酸)、ビタミンB1を中心に摂取するとよいでしょう。
わたしの経験則上、知能トレーニング、頭脳エクササイズは現在取り組んでいる仕事や勉強を通じて鍛えることができます。簡単にいうと、「目の前の問題を解決する」ことを繰り返すだけ。意識することは、その問題の本質を一言で説明できるまで言語化を繰り返すことです。
ストレスマネジメント
ストレスマネジメントも重要なスキルの一つです。仕事上のストレスは心臓病のリスクを20%上昇させると言われており、ストレス対処は現代社会の課題です。
また「感情の伝播」、つまり家庭と職場を完全に切り離せないという問題にも対処しなければなりません。仕事での悩みやストレスを家庭に持ち帰り、それが家族に伝わり、家庭の雰囲気を悪くしてしまう経験は誰しもあるでしょう。
仕事でのマイナス(苛立ちや退屈)はプラス(生産性、人脈、新しいスキル)へ、家庭でのマイナス(疲労感や罪悪感)はプラス(支え合いとくつろぎ)へ昇華させましょう。
変身資産
変身資産とはマルチステージを生き抜くため社会の変化に柔軟に対応し、人生の途中で何度でも新しいステージへの移行を成功させるために必要な要素。変身資産は人生100年時代、様々なライフステージを移行する際に立ちはだかる不確実性への対処能力を高めます。変身資産においては以下3点が不可欠です。
自己理解
自分史の作成がおすすめです。過去・現在・未来について絶え間なく自問し続けることで、自分に対する理解が深まります。
人的ネットワーク
ライフステージの移行過程では新しい人的ネットワークに加わることになります。活力と多様性に富むネットワークを築いている人ほど、円滑な移行を遂げやすいと言われています。これは多様なロールモデルやイメージを得られやすいからです。
変身のプロセスが受け身でないこと
ライフステージの移行において、頭で考えるだけでは変化できません。とにかく行動することで自ら変化していくことが求められます。
新しいステージへの移行
人生100年時代においては、「20歳までは教育、65歳まで働いて、残りの余生を楽しむ」という一方通行のライフスタイルは通用しないと言われています。
長寿化する分、長く働くことを前提としたキャリア戦略、スキルの習得が必要であり、労働と教育、自分を見つめ直す、という各ステージを行き来するライフスタイルが求められます。
各ステージの一例を紹介していきます。
エクスプローラー
いわゆる“自分探し”の期間です。旅行や留学、勉強、ボランティアなどを通じて人生において大切なものや自分の価値観を見直したり、新しいものを発見する活動と発見の時期になります。
これまでは学生時代や老後など比較的時間に余裕のある期間にしか体験できなかったことを働き盛りの期間にあえて“エクスプロア―”することで、選択肢を増やしたり、自分の心を豊かにするなど、充電期間を設けることが大切です。
エクスプローラーに適した時期は18-30歳、40代半ば、70-80歳です。
インディペンデント・プロデューサー
起業やフリーランスのようなイメージです。自由と柔軟さを求めて、自分で仕事を作ったり、企業とパートナーシップを組んだり、組織に縛られない働き方を意味します。
ここではポイントが2つあります。
プロトタイピング
いきなり完成品を目指すのではなく、試作品を作って検証や改善を繰り返すことで、デザイン思考の基本的な考え方です。
自分で仕事を生み出すプロセスにおいて、最初から完璧なアイデアや儲ける仕組みを作ることは非常に難しい。フィードバックを蓄積しながら、小さなアイデアを積み上げていくという意識が大切です。
可能性を狭めないこと
自分には大したスキルがないから起業やフリーランスのイメージが湧かない、という人は多いと思います。そんな時は①周囲の人と比べて自分は苦労せず取り組めること、②周囲の人によく相談されること、を思い浮かべてください。
例えば、効率的なExcel操作方法、長文の報告書を無心で書くこと、商談での会話術、など、自分では気付かなかった“隠れスキル”が見つかるかもしれません。そうしたスキルは人の役に立つ、つまり価値を生む可能性が高いので、上述のプロトタイピングによって精度を高めていくとよいでしょう。
ポートフォリオ・ワーカー
様々な仕事や活動を同時並行で取り組む人をポートフォリオ・ワーカーと言います。「定年まで会社に骨を埋める覚悟で本業一筋」という固定観念を持っている方は危険です。
S&P500(≒アメリカの代表的な500社)の会社存続年数は平均67年(1920年)から平均15年(2013年)まで縮まっています。人間は長寿化する一方で、会社の寿命はどんどん短くなっている訳です。
“会社“に雇ってもらう、という意識ではなく、”自分という商品・スキル“を使って本業、副業、ボランティアなど複数の選択肢を通じて稼ぐという考え方が大切です。
メリット
ポートフォリオ・ワーカー最大のメリットは、複数の収入源を持つことで会社倒産やリストラのリスクに対処できること。そして、複数の活動・仕事で相乗効果が期待できる、つまり他での経験を活かせる、ということです。
デメリット
一方で、仕事ごとに行動パターンや頭の働かせ方を切り替える能力が必要で、その点は非効率ですが、上述の相乗効果を生み出すことでスイッチングコストを減らすことが求められます。
さいごに
人生100年時代を生き抜くための、“無形資産運用”についてお伝えしました。
まずは自己理解、自分の価値観を改めて見直すことが出発点となります。以下の記事で紹介しているMission Statementの作成から取り掛かると良いでしょう。